昔、島崎藤村の「破戒」を読んで思ったのは、
「人間という一見一個人として成立する者たちはむしろ群衆としてしかその存在の意義を見つけることができない」
という当時の高校生らしい誤ったものだった。
本当に悪い意味で馬鹿だった高校生の僕は、
その群衆を目覚めさせるものが「異化」であると信じて馬鹿をやっていた。
自転車に乗って誰よりも速く走ることが「異化」なんだ、と。
そんな馬鹿だった僕は今も変わらず馬鹿のまま。
あん(河瀬直美)
廃れた文化を僕たちはなんとなしに吟味し、
なんとなしに咀嚼し消化する毎日だ。
それに特別な一日をプラスしても
なんとなしに群衆に紛れて死んでゆくだけだ。
群衆に自らが属性を施せば、
なんとなしに一個人としての尊厳が保たれる。
そんな錯覚に溺れている。
抜け出せない、沼のような。